時間軸のブランド戦略

「部屋は無印良品で揃えています」。
「でも、無印良品はかわいくないんですよね」。
つい先日話をしていた30歳手前の女性の発言である。
「もともとの無印良品のコンセプトは、『ワケあって、安い』なんだよ。知ってた?」と、もちろん知らないことを前提に聞いてみた。当然のごとく、「知りませんでした」との回答である。

ブランドは時間とともにその存在を変えるものである。ブランド戦略にとって時間軸はとても重要な要素である。

たぶん30年前、「ワケあって安い」の無印良品は、新しいジャンルの「ブランド」であったと考える。それこそ、デザイナーブランド、インポートブランドで高額な商品が並ぶなか、「無印良品」を選択することは「安い」から購入するだけではなく、そこに無印良品の「主張」に共感している自分という「理由」が立ったように思われる。今でいうなら「賢い消費者」というところである。

ところが、今の無印良品は「ライフスタイル・ブランド」として認識されている。たぶん価格は「決して安い」と自慢できるものではないのが、今の無印良品であろう。だかその根底にある「主張(=ブランドプロミス)」はきっと30年前と変わらないと信じている。
私が会話した女性にとって、調度品として無印良品は「ニトリよりもいいもの」であったのだと思う。しかし、彼女はユニクロをファッションとしては選択し、雑貨はフランフランを買い場として選択する、と説明する。自分のセンスを認めてと言わんばかりに・・・。

もちろん、30年前にユニクロはなかったし、フランフランもなかった。競争相手が登場することで「無印良品」の輪郭が以前にもましてはっきりしてきているのだろう。また、そのなかで生き残るためにも姿や形を変えなければならない。外的環境によって生物が進化するのと同じであり、その適合こそがブランドをマネジメントする企業努力となるはずだ。

考えてみれば、GUCCIというラグジュアリーブランドがあるが、それこそ私が学生だったころは、海外の空港で売られていた「ダサい小物ブランド」であった。それがデザイナーを一新し、PRすることであれよあれよという間に「ラグジュアリーブランド」の仲間入りを果たした。それでも20年はかかっているとも思う。また、ニューバランスは今や路面店を持つスニーカーのトップブランドであり、アディダス、ナイキと肩を並べるまでなったが、10数年前は比較的安くで購入できるブランドであった。しかしいまは、安売りはほぼしていない。

ブランドのポジショニングは外的環境、自己の目標達成状況(社会認識)、事業の拡大方向によって変容する。逆に変容させなければそのブランドは成長しない。故に、ブランドにとって時間軸の設計はなくてはならないものであり、時間軸の我慢がなければブランド戦略はなしえないとさえ思う。

このブランドポジショニングの変貌をブランド・リポジショニングと言い、それを発動するアクションを「ブランドイノベーション」と言う、近々このことを書いてみたい。